…今思い出しても奇妙な出来事だったね。
でも、その時はそうとは思わなかったんだ。これも奇妙な事だよね。
あの日僕は、砂漠をらくだで急いでいた。急に熱を出した弟を、お医者に診て貰わなけりゃならなかったから。
僕は自分の住んでる町がとても好きだけど、嫌になる時もあるよ、何でこの町にはお医者がいないんだろうって。
普通はお医者のいる町まで、町にあるセスナで行くんだけど…全く運の悪いことに、3台あるセスナはどれも使用中か、そうでなけりゃ故障中だったんだ。
これもまた運の悪いことに、父さんも母さんも用事で余所へ出かけててね…だから僕は、弟をらくだでお医者のいる町へ連れて行こうとしたんだ。 僕だってもう15歳だし、弟を守るのは兄貴の役目だろう?何たって弟はまだ5歳になったばかりなんだし。
そんな訳で僕は、らくだに弟を乗せて暑い砂漠を急いだよ。勿論弟には万全の日除け対策をしてね。
だけど運の悪いことっていうのは重なるものなんだなあって思ったよ…どういう訳か、その日に限ってらくだが暑さにやられちゃったんだ!…後でわかった事だけど、あのらくだは、町で一番の年寄りだった、無理をさせて悪かったと思うよ…
倒れるまではしなくても、らくだはもうろくに走れなくなっちゃって、しょうがなく僕は弟を背負ってらくだを降りて、彼をリードしたんだ。砂漠の真ん中にらくだを置き去りにするわけにもいかないだろう?
僕も暑さには慣れてるけど、流石に弟を背負って太陽の下を歩いてると…頭がくらくらしてきたね。でも弟は熱を出してるんだから…とにかく急がなきゃと思って、無我夢中でらくだを引っ張ってた。
そして…彼に遇ったんだ。いや、気付いたって言った方がいいかもね。
最初は観光客かなと思った。でも、こんな砂漠の真ん中に、スーツを着込んだ観光客が1人で立ってるわけが無い、って、そう考えるだけの頭は流石にまだあったよ。
彼は、綺麗な金髪に、石膏みたいな…とにかくおかしな色の肌をしていた。 それに、あまり見かけないくらい背が高かったよ。立ってるだけでも変に存在感があるんだ。遠くからでもそれを感じたよ。
歩きながらぼんやりと近付いてくる彼の背中を見ていると、ふうっと彼が振り向いたんだ。見たこと無いくらい綺麗で、冷たい青い目をしていた。
驚いたのは、スーツを着込んでるのに彼が汗一つかいてなかったことだよ。僕だって、その時にはもう結構な量の汗をかいてたのに!
彼は何も言わなかったよ。じっと僕たちを見ていた。
僕は…どうしてなんだろう、今でも解らないんだけど、自然に体が走り出していて、そして…彼に、たすけて、って言ってたんだ。
とにかく、僕はくらくらする頭で喋ってたよ。弟が熱を出して、お医者のいる町まで行かなくちゃいけなくて、だけどらくだが走れなくなっちゃって…そんな事を見ず知らずの人に話してもしょうがないのにね。 だけど僕は必死で喋ってた。僕は兄だ、だから弟を助けたい…って。
それまでずっと黙っていた彼が初めて口を開いた…今思えば、明らかに現地人じゃないのに、完璧なアラビア語だった。その声が、やけに静かな世界に響いたよ。
「思い上がるな」
彼が何を言わんとしているのか、僕にはよく解らなかった…だけど、彼は僕じゃなくて別のものを見ているように思えた。
そして…そして、彼がそれまでズボンのポケットに入れていた右手をすっと出したんだ。正直に言うと怖かった。殴られるんじゃないかと思った。
…でも、気付いたらその手は僕の背中の弟の頭に置かれていたんだ。
それから、彼は、暑さでへばっていたらくだの頭にも手を置いた。それから言った。
「命は惜しいだろう。今すぐ余の視界から消えよ。此れより起こる事に巻き込まれたくなくば」
気付いた時には、僕はすっかり元気になったらくだに乗って、来た方角を帰っていた…だってついさっきまで苦しそうな息をしていた弟の体からはすっかり熱が引いて、弟はすやすや気持ち良さそうに寝ていたんだから…
…彼は一体何者だったんだろうね。
神さま?
さあ、どうだろうね。
でも、それに近いものだったんじゃないかとは思うよ。





*えり*
ユリアン視点より他人視点の方がユリアンの威圧感というかそういうものを書けると思ったんですが…何か最初書きたかったものと全然違うものに…
閣下の科白は少ないけど書いててひたすら恥ずかしかったです。
訊かれて困る事はユリちゃんあんな所で何してたの?という事。
兄者と一戦やらかそうとでも思ってたんじゃないのかナ(適当)
誤解されると困る事は別に閣下は仏心で弟とらくだをアレしてあげたのではないという事。
じゃあ何でよと訊かれると…うーんその辺は各自想像という事で…(なめんなっちゅーの!)
あとギルなら出来そうっていうか出来ると思われることを何か弟君がやらかしちゃってますが…まあその辺は極力お気になさらぬように!




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