寒い…… 日の光も射さぬ路地裏で、青年は自身の肩を掻き抱いた。冷たい壁に凭れ掛かり、服が汚れるのも構わずに地面に座り込んでいるレミーの周囲には、搾り出すように呻き声をあげている男達が幾人も倒れていた。 表通りでゲラゲラと下卑た笑い声を立てていた男達。”ストリートファイト”だと、そう言っていたが、あれはリンチ以外の何ものでもなかった。だからそれを見たレミーは言ったのだ、クズめ、と。 憚る事無く大きな声で言われたその言葉を、勿論男達は聞き逃さず、今度はレミーを大勢で取り囲んだ。 男達は舐めきっていたのだ。女の様な容貌、長身ではあるが細い手足の20になるかならないかという若造を。ちょっと痛い目見せてやれ、ついでに頂ける物があれば頂いちまえ、と。 そして2分後、彼らはゴミの様に地面に転がっている。 俺は…何故こんな所にいる…? 長い銀髪に覆われている瞳に、翳りがよぎった。 欲しくも無かった、こんな才能、闘える事に何の意味がある? こんな力で何も守れるものか、破壊、憎悪、略奪…そんなものばっかりだ! 俺はただ、あの人を守りたかった、あの人とずっと一緒にいたかった、あの人を幸せにしたかったんだ… 「姉さん…」 青年は、か細い声を漏らした。もう、目の前に転がっている男達の存在など、気にも留めていなかった――いや、本当は、彼らの姿を見た時から、彼らの事など眼に映していなかったのだ。 絶対に許さない。俺からあの人を、姉さんを奪ったあの男を。 誰よりも美しく、誰よりも優しく、誰よりも尊い存在だった姉さん…姉さんは、聖母だった。 何よりも大切だったのに。俺は姉さんがいればそれで良かったんだ。 あの男は俺から姉さんを奪っただけでなく、大切なものを踏みにじっていった…許さない。 報いを受けさせてやるのだ、そして償いをさせてやる―― 「…だけど…ここは、暗い…ここは寒すぎるよ、姉さん……」 レミーは一層強く、自分の体を抱き締めた。遠い昔、姉がそうしてくれたように。 彼の中で広がり続ける深く深く冷たい闇。 どうしてだろう、”奴ら”を倒せば倒すほど、その闇は広がっていくように感じるのだ。 本当にこれで良いのかと、何度も何度も自身に問うた事もある。けれど、もう―― レミーは、ピクリと体を震わせた。 何かが、触れたような気がする。酷く懐かしく、温かなものが。 ”さあ…顔を上げて……” 「――姉…さん…?」 ゆっくりと、顔を上げた。壁に手を這わせ、立ち上がる。 姉の顔が見えた。何年経とうと忘れない、全てを慈しむ様な清らかな笑顔。 解っている、今のレミーがしている事、これからしようとしている事、それらを姉がどう思うかという事は。けれど、もう―― 「…もう、引き返せないんだ……」 壁に手を付き、弱々しい足取りでレミーは暗い路地裏の道を歩き出した。 歩き続ける前方には太陽の光が射し込んでいたが、青年の瞳が映しているのは暗闇だけだった。 ☆なじ☆ もっと姉さんラブラブにしたかった…(え、コメントそれだけ!?) |
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